計画1:計画とは何か

計画論に入るにあたって、一応、計画とは何か、すなわち「計画の定義」を確認しておく。

「計画」や「計画論」といった言葉に大方の研究者が了解するような定義は存在しない。むしろ、1980年代初頭から始まった研究の異様なまでの(hyperactive)盛り上がりのなかで、計画論は「パラダイムの崩壊」と呼ばれるまでに細分化、断片化されていった(Allmendinger, 2002, pp.78-79)*1

計画論の大家 ジョン・フリードマン(J. Friedmann)は、「40年におよぶ活発な議論をへて、なぜいまだに計画論に関して、定義はおろか、異論を呼び起こすことなく広く受け入れられる共通理解を見出すことすらできないのか」と慨嘆している(Friedmann, 2011, p.8)*2

 そんなわけで、ここで「これ」といった定義をひとつ選ぶのは至難の業だ。なので、今回は、今後このブログにご登場願う研究者たちが、それぞれに計画をどう定義しているかを、ざっと並べて見ておくことにする。 

広範な分野で研究活動を展開し、ノーベル経済学賞チューリング賞を受賞したハーバート・サイモン(H. Simon)は、計画を「将来についての提案、代替的提案の評価、およびこれらの提案の達成方法にかかわる活動」と定義している(Simon, 1950)*3。サイモンの計画論に関しては、彼の限定合理性の議論を見たあとで、再度触れることとする。

オペレーションズリサーチやシステムシンキング、経営科学等の先駆者であるラッセル・エイコフ(R. Ackoff)は、「計画とは、未来において実現したい状態があり、一連の行動をとることによってその実現の可能性が著しく高まる場合に、それを実現するための一連の行動を分析・評価するプロセス」と定義している(Ackoff, 1970)*4。古いものだが、比較的ひろく引用されている。 

J. フリードマンは、計画策定(planning)の定義として、操作的定義(operational definition)と形式概念(formal concept)のふたつをあげている。操作的定義は、問題を定義し、状況をモデル化・分析し、ひとつ以上の可能な解決策を策定し、解決策の詳細な評価をおこなう活動というものであり、解決策の策定に、目的と目標の設定、将来予測、達成可能性の判断、活動順序の設定などが含まれる。形式概念は、知識と行為をつなぐプロセス、というものである(Friedmann, 1987, pp.37-40)*5。 つまり、計画策定とは、実践上は、問題を特定し、その解決策を考え、目標を定め、目標達成のための活動の順序を特定することであり、われわれに馴染み深い定義だといえるだろう。面白いのは計画策定の概念で、フリードマンは、計画策定は知識と行為をつなぐプロセスだと言っているのである。

MBAが会社を滅ぼす』(2006年, 日経BP社)を書いた経営学者ヘンリー・ミンツバーグ(H. Mintzberg)は、①未来を思考すること、②将来をコントロールすること、③意思決定、④統合化された意思決定、⑤意思決定を統合化したシステムの形で明確な結果を生み出す公式の手順、といった過去の研究者の定義を有効としつつ、みずからは定義を定めず、「効果的な実行に導くための最初の一歩を踏み出すことによって、意図された戦略を現実の戦略に変換する」ことを計画策定(planning)の「唯一の役割」としている(ミンツバーグ, 1997, p.354)*6。 

科学技術人類学者 ルーシー・サッチマン(L. Suchman)は、認知科学において、「プランはあらかじめ想定された目的を達成するためにデザインされた行為の系列」と見なされているとし(サッチマン, 1999, p.28)*7 、みずからはこの見方を批判している 。 

プロジェクトマネジメント標準の定義も見ておこう。

実務書ゆえに「計画」などという基本語の定義にはこだわらないのか、PMBOKにもP2Mにも、「計画プロセス」の定義はあっても、「計画」の定義は見あたらない。 

PMBOKは「計画プロセス群」を、「プロジェクトの目標達成に向け、プロジェクトのスコープを確定し、目標を洗練し、求められる一連の行動を定義するために必要なプロセス群」としている(PMI, 2018, p.23)*8

 P2Mは、「プロジェクト計画作成の目的」を、「プロジェクト完了までの実現性を確保したロードマップとしてのプロジェクト計画書を策定し、ステークホルダーの承認を獲得すること」(PMAJ, 2014, p.228)*9とし、プロジェクト計画書に何が記載されるべきかを詳細に解説している

以上、1950年のサイモン以降、およそ10年から20年ごとの定義を見たことになる。いずれも、「将来を予測し、目標を設定し、それを達成するための一連の行動を設定するもの」という骨格は共通していると言ってよさそうだ。

ということで、いささか退屈だったかもしれないが、計画の定義の話しはここまで。

次回から、合理主義的計画と漸増主義的計画の話しに入る。

では、また。

*1:Allmendinger, P. (2002). "Towards a post-positivist typology of planning theory,” Planning Theory, Vol. 1 (1), pp.77–99.

*2:Friedmann, J. (2011). Insurgencies: Essays in Planning Theory. Oxford: Routledge.

*3:Simon, A. H., Smithburg, D. W., and Thompson, V. A. (1950). Public Administration. New York: Alfred A. Knopf Inc. 邦訳:H. A. サイモン、D. W. スミスバーグ、V. A. トンプソン(著)、岡本康雄・可合忠彦・増田孝治(共訳)(1977)『組織と管理の基礎理論』ダイヤモンド社. 

*4:Ackoff, R. L. (1970). A Concept of Corporate Planning. New York: John Wiley & Sons Inc. 

*5:Friedmann, J. (1987). Planning in the Public Domain: From Knowledge to Action. New Jersey: Princeton University Press.

*6:ミンツバーグ, H.(著)、中村元一・黒田哲彦・崔大龍・小高照男(共訳)(1997)『戦略計画:創造的破壊の時代』産業能率大学出版部.

*7:サッチマン, L. A.(著)、佐伯眸・上野直樹・水川喜文・鈴木栄幸(共訳)(1999)『プランと状況的行為 ―人間-機械コミュニケーションの可能性―』産業図書株式会社.

*8:PMI®(Project Management Institute®)(2017)『プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOK®ガイド)第6版』PMI®.

*9:PMAJ(Project Management Association Japan)(2014)『改訂3版 P2M プログラム&プロジェクトマネジメント標準ガイドブック』日本プロジェクトマネジメント協会(PMAJ).