計画9:制約理論(TOC)(1)

ということで、今回は、ゴールドラットの仕事について見る。

エリヤフ・ゴールドラットEliyahu Goldratt)(1947年~2011年)は、イスラエルで物理学を専攻する学生だったが、工場を経営する知り合いから相談を受け、生産スケジューリングに関する独自な考え方と、それにもとづくソフトウェアOPT(Optimized Production Technology)を開発した。OPTの評価は高く、ゴールドラットは、大学卒業後まもなく、OPTの普及とコンサルティングをおこなう会社*1を設立した。会社は、米国ゼネラル・エレクトリック社(GE)のプロジェクトで大幅な収益改善を実現するなどして、成長企業となった。しかし、40万ドル(約9,500万円*2)という価格がネックとなり、OPTの売り上げは期待したほど伸びなかった。

そこで、1984年、ゴールドラットは、OPTの考え方を広く紹介するために、プロのライターの助けをかりて、当時としては珍しかったビジネス小説を書いた。それが、10数か国語に翻訳され、世界で200万部*3を売り上げた『The Goal』(邦訳2001年*4である。

『The Goal』は発売とほぼ同時にベストセラーとなった。しかし、読者からの反応はゴールドラットにとってショックだった。小説に書かれているとおりに工場改善をおこなったら劇的な成果があがった、という報告がぞくぞくとあがってきたのである。つまり、15ドルの小説を読んでその考え方を導入することが、40万ドルのソフトを導入するのと同様の効果をあげたのである。これではOPTの存在価値がない。

また、当時、OPTを導入して効果をあげた大企業の工場で後戻り現象がみられたということもあった。OPTによって生じた効果が、徐々に縮小・後退しはじめたのである。ゴールドラットはそれをソフトウェアの限界と考えた。多くの工場では、たんにソフトウェアを導入して生産ラインの効率をあげただけで、コスト重視の考え方や、パフォーマンスの評価指標などが従来のままだったために、工場全体は以前の生産方法にもどっていったのである。

これらのことを契機として、ゴールドラットは、自ら設立した会社を退職し、OPTの基本原理となる「考え方」を発展・普及させることを目的に、新たな協会*5を設立した。

OPTの基本原理となる考え方は、制約理論(TOC: Theory of Constraints)で、それをプロジェクトマネジメントに応用したものがクリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント(CCPM: Critical Chain Project Management)だが、これらについては次回、紹介する。

 

今回は、TOCCCPMを紹介するつもりだったが、その背景となるエピソードが面白かったので、そちらを紹介していたら長くなってしまった。
ということで、次回は、本題にもどって、プロジェクトマネジメントに心理学的視点をもちこんだTOCCCPMについて考えます。
では、また。

 

*1:Creative Output Inc.

*2:1USドル=237.5円(1984年)

*3:『制約理論(TOC)についてのノート』(小林英三, 2000年, ラッセル社)による。何年時点の売り上げかは不明。Wikipediaによると、2014年時点で1,000万部とのこと。

*4:ゴールドラット, E.(著), 三本木亮(訳)(2001)『ザ・ゴール』ダイヤモンド社

*5:Avraham Y. Goldratt Institute (AGI)