プロジェクトマネジメントを哲学する

計画は幻想だ、PDCAは気休めだ、などなど

計画10:制約理論(TOC)(2)

ということで、制約理論とクリティカルチェーン・プロジェクトマネジメントの中身の話しに入る。以下、制約理論(TOC: Theory of Constraints)*1TOCクリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント(CCPM: Critical Chain Project Management)はCCPMと呼ぶ。依拠するおもな文献は、ゴールドラットの『ザ・ゴール』(1992年、邦訳2001年)*2と『クリティカルチェーン』(1997年、邦訳2003年)*3とする。

『ザ・ゴール』は、生産性が低く赤字がつづいていた工場を、TOCの考え方をもちいて立て直す話しである。だから、テーマは製造業の製造ラインの話し。『クリティカルチェーン』は、『ザ・ゴール』での経験をプロジェクトに適用する話しで、こちらのテーマはプロジェクトマネジメント。どちらもTOCがもとになっているが、TOCがより詳しく説明されているのは『ザ・ゴール』なので、まずはこちらを読むことをお勧めする。小説としても『ザ・ゴール』のほうがずっと面白い。

『ザ・ゴール』では、まず、「計画は必ず遅れる」ことが検証される。その理由は、製造ラインが複数の工程からなる一連の依存的事象であり、各工程の処理能力には統計的変動があるためである*4。要するに、製造ラインではひとつまえの工程の成果を受けて次の工程が仕事をするということ(依存的事象)と、それぞれの工程の処理能力は同じではなく「ばらつく」ということ(統計的変動)である。このふたつの性質のため、生産は必ず遅れる。このことが、小説では、ハイキングの途中で子供たちがやるサイコロゲームで説明される。

ゲームでは、キャンプ用のアルミ椀を5つならべ、はしにマッチ棒をおく。お椀が製造工程で、マッチ棒が製品(仕掛品)である。それぞれのお椀のところに子供がひとりずつつき、順番にサイコロをふり、出た目の数だけ自分のお椀から次の人のお椀にマッチ棒を移動させる(依存事象)。サイコロの目は1から6のあいだで変動するので、これが各工程の処理能力の違いをあらわす(統計的変動)。動かせるのは自分のお椀のなかのマッチ棒だけなので、サイコロを振って5が出たとしても、自分のお椀にマッチ棒が2本しかなければ2本しか動かせない。マッチ棒が1本もなければ、もちろん1本も動かせない。また、全員が順番にサイコロを振り、1ラウンド終わったときにお椀に残ったマッチ棒は、そのまま残して次のラウンドに進む。つまり、各工程の仕掛品として残るわけである。
1回サイコロを振って動かせるマッチ棒の数は、最高が6本で最低が1本だから、平均すると1回に3.5本動かせることになる。10ラウンドくりかえせば、35本のマッチ棒が5番目のお椀から出てくることになる。さて、子供たちが10ラウンドやってみて、何本のマッチ棒が5番目のお椀から出てきただろう? これが、なんどやっても、20本ほどしか出てこないのである。

実は、筆者も、暇にあかせてやってみた。1ラウンド目22本、2ラウンド目28本、3ラウンド目24本と、35本には遠くおよばない。さすがに何10ラウンドもやってみるほど暇ではないので3ラウンドだけにしたが、どうやら、これは偶然ではないようだ。だとすると、各工程の平均処理能力から予測した、10ラウンドやれば35個の完成品を生み出せるという「計画」は成立しない。すなわち「計画は必ず遅れる」。

これは、各工程が依存関係にあるラインでは、前工程から後工程に、プラス(進み)は引き継がれず、マイナス(遅れ)のみが引き継がれることをしめしている。前工程のプラスを引き継ぐためには、後工程は、前工程と同じかそれ以上の処理をする必要がある。サイコロゲームでいうと、前の人が平均以上の目(4, 5, 6)を出した場合、自分は、それと同じかそれ以上の目を出さないと、前の人のプラスを後の人につなげないのである。だが、もちろんそれ以下の目が出ることもある。そして、それ以下の目が出た場合、目の数だけのマッチ棒が後の人に引き継がれ、余りは仕掛品として残る。逆に、前の人が小さい目を出した場合、引き継げるのはその目の数のマッチ棒だけなので、自分がどんなに大きな目を出しても、後の人に引き継げるのは、前の人から受け取った数のマッチ棒だけある。つまり、依存関係にあるラインでは、遅れだけが引き継がれる。すなわち、計画は必ず遅れるのである。

 

お分かりいただけただろうか。ゲームを文章で表現するのは、けっこう難しい。申し訳ないので、マッチ棒ゲームを分かりやすく説明してくれているサイトにリンクをはっておきます。こちら↓です。

「2つの勘違い」は工程のバランス追求が発生源:利益創出! TOCの基本を学ぶ(4)(1/3 ページ) - MONOist


今回はここまで。
TOC/CCPMの話しは1回で終わらせるつもりだったのに、意外と長くなりそう。
次回は、上記以外の「計画は必ず遅れる」理由をいくつか紹介します。それが、ゴールドラットがプロジェクトマネジメントに心理的視点をもちこんだアプローチです。
では、また。

 

*1:TOCは、「制約条件の理論」や「制約条件理論」などとも訳されるが、ここでは「制約理論」と呼ぶ。constraintsを「制約条件」と訳すことについては多少、言いたいことがあるが、またの機会にゆずる。

*2:ゴールドラット, E.(著), 三本木亮(訳)(2001)『ザ・ゴール:企業の究極の目的とは何か』ダイヤモンド社

*3:ゴールドラット, E.(著), 三本木亮(訳)(2003)『クリティカルチェーン:なぜ、プロジェクトは予定通り進まないのか?』ダイヤモンド社

*4:『ザ・ゴール』p.165