プロジェクトマネジメントを哲学する

計画は幻想だ、PDCAは気休めだ、などなど

2022-01-01から1年間の記事一覧

計画18:合理主義的計画から漸増主義的計画へ

ということで、ここまでの議論と今後の見通しを概観しておく。 ここまでの議論で、われわれは合理主義的計画の限界を確認してきた。 中俣・郡司(1992)*1によると、合理主義的計画は、ある意味で、複雑なことがらを管理可能なかたちに単純化する作業である…

計画17:H. サイモンの計画論

ここまでの議論は、H. サイモンの限定合理性を出発点として、E. ゴールドラットの制約理論によって計画が必ず遅れることを確認し、L. サッチマンの状況的行為論によって計画が状況判断の材料にすぎないことを見てきた。 今回は、その出発点にもどり、限定合…

計画16:計画と状況的行為(4)

Suchman (1987) の実践的含意は、認知科学のプランニング・モデルに対する批判にあった。プランニング・モデルは、計画を、あらかじめ想定された目的を達成するために必要な一連の行為の流れをしめしたものとみなす(p.28)。これは、われわれの多くが「計画…

計画15:計画と状況的行為(3)

行為が状況的であることをしめすふたつめの例は、カヌーで急流をくだる話しである。サッチマンは、「計画は、状況に対応した行為をおこなうための判断材料であって、いかなる意味においても、行為の進路を決定するものではない」(p.52)という。たとえば、…

計画14:計画と状況的行為(2)

では、サッチマンの「計画は状況に対応した行為を選択するための判断材料にすぎない」という主張について考えてみよう。以下、Suchman (1987) *1からの引用は、既刊の邦訳本*2によらず、本ブログ筆者の訳文をもちいる。 ついては、用語の問題だが、situated …

計画13:計画と状況的行為(1)

さて、ここまで、合理主義的計画の不合理さを、サイモンの限定合理性とゴールドラットの制約理論の観点から見てきたわけだが、最後に、"状況論"の観点から見て、合理主義的計画の話しを終わることにしたい。ここで参照するのは、ルーシー・サッチマンの "Pla…

計画12:制約理論(TOC)(4)

以上に見てきたところをまとめると、以下の理由から、プロジェクトは必ず遅れる。 前工程から後工程に遅れのみが引き継がれる。 全体のスピードは最も能力の低い工程のスピードによって決定される。 各タスクはぎりぎりになるまで開始されない(学生症候群)…

計画11:制約理論(TOC)(3)

このハイキングでは、製造ラインに関して、もうひとつの重要な発見があった。ラインのスピードは、ラインのなかで最も能力の低い工程のスピードによって決定される、ということである。 ハイキングで、子供たちは一列にならんで、目的地を目指して歩いた。主…

計画10:制約理論(TOC)(2)

ということで、制約理論とクリティカルチェーン・プロジェクトマネジメントの中身の話しに入る。以下、制約理論(TOC: Theory of Constraints)*1はTOC、クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント(CCPM: Critical Chain Project Management)はCCPM…

計画9:制約理論(TOC)(1)

ということで、今回は、ゴールドラットの仕事について見る。 エリヤフ・ゴールドラット(Eliyahu Goldratt)(1947年~2011年)は、イスラエルで物理学を専攻する学生だったが、工場を経営する知り合いから相談を受け、生産スケジューリングに関する独自な考…

計画8:行動経済学からプロジェクトマネジメントへ

ここで、プロジェクトマネジメントの話しにもどる。 ここまでの話しを簡単に振り返っておこう。計画論の話しをしているのだった。計画には合理主義的計画と漸増主義的計画があり、伝統的プロジェクトマネジメントは前者に立っている。だから、人工物をおもな…

計画7:行動経済学

さて、人間の合理性は限定的であるという前提を受け入れると、つねに経済合理的な行動を行なう「経済人」(ホモ・エコノミカス)を前提としてきた伝統的経済学は、根底から揺るがされることになる。 すでに何度か経済人には言及してきたが、ここで改めてその…